
ステンシルはかっこ悪い?! 僕らの学習帳 vol.126
現在知られているバンクシーの作品のほとんどは、ステンシルという技法によって作られています。
ステンシルとは、簡単に言うと「型抜き」です。段ボールなどを自分の描きたい形に切り抜き、その上からスプレーすることで、切り抜いた部分がくっきりと絵としてあらわれます。
このステンシルという手法を使っているグラフィティアーティストは、ストリートではほとんど出会いません。それもそのはずで、グラフィティの世界では、ステンシルはタブー視されているからです。
とはいっても、このステンシルという技法を発明したのがバンクシーというわけではありません。彼の前にも、ステンシルを使ったアーティストは存在しました。
その中でも彼に影響を与えた存在が二人いた。ひとりは、ブリストルで3Dという名前で活動していたグラフィティアーティストで、もうひとりは、パリのアーティストのブレック・ル・ラットである。
3Dは、ステンシルを使ってモナリザの顔を描き、体の部分はフリーハンドで描くという実験を行った。これを3D以外がやっていた場合は、大きなトラブルになっていたかもしれません。
グラフィティのカルチャーから追い出されたり、相手にされなくなったり、その手段は色々とあったようです。ただ、活動期間がすでに長くなっていた3Dは、周りからのリスペクトもあって、トラブルには合わなかったようです。(ステンシルの作品自体はとても不評だったようですが。)
もうひとりのパリのアーティスト、ブレック・ル・ラットについては、バンクシー本人が意識していることを、インタビューから感じられます。
「オリジナルな作品が描けたと思っていると、それはことごとくブレック・ル・ラットに先にやられている。ブレックだけが同じことを20年も前にやっていたんだよ」
これに対して、ブレックは、バンクシーのおかげで自分に注目が集まるようになったことを感謝こそすれ、批判するような気持ちはないと伝えています。ブレックとバンクシーの間にあるのは、お互いへのリスペクトだけのようです。
バンクシーは、この二人の影響によって、ステンシルを使い始めました。そして、それを現在でも継続しています。
これは、バンクシーだからステンシルを使うことを許されたということではないようです。有名になったから、作品の出来がいいから、ステンシルを使ってもいいというわけではありません。
タブーは、基本的にタブーです。
3Dのように黙認されることはありますが、評価はされません。また、当時のバンクシーはまだ駆け出しの頃だったので、3Dのような免罪符もありませんでした。
そこにあったのは、バンクシー自身の「パンク精神」とでも言えるような自分を貫く意志だったようです。つまり、周りがどう思おうが関係ない。ステンシルという表現の可能性を信じていたようです。
事実、バンクシー自身は、ステンシルについてこう語っています。
「ステンシルを切り出した途端に、パワーのようなものを感じた。冷酷な感じや効率的なところも自分に合っていた。」
この言葉通り、ステンシルというパワーを使って、バンクシーは一気に世界の舞台へと躍り出ました。
今回の僕らの学習帳は、「バンクシー 壁に隠れた男の正体」の第4章「スタイルの発見」から、お話ししました。